神経幹細胞は、脳の発達期に大量の神経細胞・グリア細胞を供給し、脳の構築に重要な細胞です。しかし、発生初期の段階での神経幹細胞自体の発生はよくわかっていません。
私たちは神経幹細胞の発生の分子機構を明らかにするため、まずES細胞を用いて神経幹細胞の誘導を試みました。その結果、世界の多くの研究室で行われているembryoid bodyを経由する方法とは異なる培養法を開発することができました。すなわち、ES細胞を無血清でleukemia inhibitory factor (LIF)を添加して培養すると、神経系に分化しつつも広い未分化性を保った細胞(未分化神経幹細胞)が誘導できました(Neuron 2001)。
ES細胞からEmbryoid bodyを経由して、多段階で神経細胞を作製する方法は知られていました。
私たちの方法はLIF存在下で無血清培地で培養します。
神経系に分化した幹細胞が誘導され、自己複製能と神経系の多分化能を示しました。
野生型マウスの桑実胚とYFP陽性ES sphere細胞とのキメラ
を作製した。24時間後のblastocyst (右上インセット) では
内部細胞塊(将来胚になる部分)がYFP陽性、胎生9.5日で
胚全体がYFP陽性だった(矢頭は頭部)。
ES sphere細胞が神経系だけでなく胎盤以外の全ての臓器
に分化する能力を保持していることを示す。
次に、このような性質の細胞が発生期の胚の内にも存在するかどうかを、マウス胎生5.5-7.5日胚を用いて検証しました。その結果、確かに胎生5.5-7.5日胚に未分化神経幹細胞が存在し、胎生7.5-8.5日にかけて神経幹細胞へと分化していくことが明らかになりました(Genes & Dev 2004)。
LIF依存性に増殖する未分化神経幹細胞と、FGF2/EGF依存性に増殖する神経幹細胞の数の推移。
これらの結果は、私たちの脳が形作られるための最初のステップを明らかにするとともに、ES細胞やiPS細胞を用いて神経(幹)細胞を作製し、障害を受けた脳を修復するという再生医療にもつながる成果だと考えています。