私たち滋賀医科大学血液内科では、8名の血液内科専門医を含む診療経験豊富な10名の医師が日々診療を行っています。毎週全ての医師が集まって症例検討会を開催し、それぞれの患者さんに対する最適な治療法を検討しています。また、医師と医師以外のスタッフ(看護師、薬剤師、検査技師、輸血部技師、管理栄養士、理学療法士、社会福祉士など)が集まる病棟カンファレンスも毎週開催しています。そこではすべての入院患者さんについて、病気特有の症状、治療の副作用、栄養や睡眠の状態、退院後家庭での看護環境、復職後の職場環境などの情報を共有し、患者さんを全人的にサポートするよう心掛けています。私たちは「一人一人の患者さんに寄り添う心を持ち、最新・最適な治療法を提供することで、地域の全ての血液内科患者さんに、滋賀医科大学で治療を受けて良かった、と言っていただける血液内科」をめざしています。
なお当院は日本血液学会認定研修施設、日本輸血学会認定研修施設です。また滋賀県内6つの基幹病院に常勤または非常勤で血液内科専門医を派遣し、密接に連携しながら診療にあたっています。
血液内科では文字通り血液の異常について検査や治療を行っています。例えば、白血球が多すぎる(白血病など)あるいは少なすぎる(骨髄異形成症候群など)、赤血球が多すぎる(真性多血症など)あるいは少なすぎる(鉄欠乏性貧血など)、血小板が多すぎる(本態性血小板血症など)あるいは少なすぎる(血小板減少性紫斑病など)と言われた場合には、血液内科を受診してください。ほかにも、リンパ節が腫れてきた(悪性リンパ腫など)、脾臓が腫れてきた(骨髄増殖性腫瘍など)、血小板数は正常なのに出血しやすい(血友病など)、腰痛でX線写真を撮ってもらったら脊椎の圧迫骨折だった(多発性骨髄腫など)といったように、一般的な血液検査で異常が見つからなくても、血液の病気が存在していることもあります。
治療法は病気によって異なります。内服薬で治療することもあれば、点滴で治療することもあります。輸血、放射線、手術などの治療法を組み合わせることもあります。とくに難治性の血液疾患に対しては造血幹細胞移植を行うことがあります。逆に治療をしないでそのまま経過をみることもあります。
造血幹細胞移植には骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植の3種類があり、当院ではそれら全てを実施することができます。日本骨髄移植推進財団(日本骨髄バンク)認定非血縁者間骨髄移植施設ならびに骨髄採取施設です。病棟には準無菌管理個室3室と完全無菌管理個室2室を備えており、必要な患者さんに対してタイミングを逃すことなく造血幹細胞移植を実施することが可能です。1991年から2022年までの累計移植数は400件近くにのぼります。
造血幹細胞移植では移植直前に大量の抗癌剤と全身放射線照射(前処置と呼んでいます)を行うことから、以前は50歳以下で比較的全身状態の良い患者さんのみに行われてきました。しかし当院では、前処置の強度を弱めたを骨髄非破壊的造血幹細胞移植を導入しており、70歳前後の患者さんまで移植が可能です。
造血幹細胞移植は原則としてHLAという白血球の型が一致しているドナーさんから行います。以前は、血縁内や骨髄バンクにHLA一致ドナーが見つからず、かつ適切な臍帯血も見つからない場合、移植はあきらめざるを得ませんでした。しかし当院では、移植後にある薬剤(シクロホスファミド:保険診療として承認されています)を投与することで、HLAが半分異なっているドナーさんからの移植も可能です。
造血幹細胞移植はドナーさんから提供された造血幹細胞を患者さんに移植(輸注)すればそれで終了、というわけではありません。その後の患者さんの経過がとても大切です。そのような考えから、当院では移植後長期経過した患者さんを詳細に診察する移植後フォローアップ外来を設置しています。すなわち、単に生存率を評価するのではなく、生活の質(quality of life, QOL)を維持した上での生存率が大切だと考えています。
医療の急速な進歩により、白血病における遺伝子異常の解析が進み、それが予後予測や造血幹細胞移植適応の可否に有用であることが判明しつつあります。また、急性白血病を治すことを目的として、新しい分子標的治療薬(FLT3阻害剤、BCL2阻害剤、メチル化阻害剤、抗CD33抗体、抗CD22抗体、CD19-CD3二重特異性抗体など)を用いた治療を導入しています。当科は以前から多くの多施設共同臨床試験に参加しており、現在はt(8;21)およびinv(16)陽性急性骨髄性白血病に対する微小残存病変を指標としたゲムツズマブ・オゾガマイシン併用第二相臨床試験や、急性前骨髄球性白血病に対する亜ヒ酸+レチノイン酸併用第二相臨床試験、急性リンパ性白血病に対する多剤併用第三相臨床試験などの臨床研究に参加しています。
高齢化に伴い、骨髄異形成症候群の患者さんが多くなっています。造血幹細胞移植は治癒を期待できる唯一の治療法です。しかし、最近では遺伝子DNAのメチル化を阻害することで進行を抑制することが期待される薬剤(アザシチジン)の登場により、高リスク群では生存期間の延長が、低リスク群では輸血回数の減少などの効果が得られます。当院ではアザシチジンによる治療も積極的に行っています。
慢性骨髄性白血病はフィラデルフィア染色体(9番と22番の染色体に起こる転座と呼ばれる構造異常)がその発症の原因となります。このフィラデルフィア染色体によって産生されるBCR-ABL蛋白を阻害するチロシンキナーゼ阻害剤(イマチニブ)が登場して以降、劇的に治療成績が改善しました。現在では、さらに治療効果が高い第2世代チロシンキナーゼ阻害剤(ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ)が登場し、効果が不十分である場合や副作用のため治療継続が難しい場合には、第3世代チロシンキナーゼ阻害剤(ポナチニブ)やABLミリストイルポケット結合型阻害剤(アシミニブ)が使用可能となり、さらに治療成績が向上しています。治療効果を詳細に評価することで、一部の患者では治癒が望める可能性が出てきています。
年間、最も多くの患者さんが受診され、治療を受けられます。悪性リンパ腫は約100種類にもされ、かつ病態の進行も患者さんによって異なるため、それぞれの患者さんに合わせた治療を行う必要があります。抗CD20抗体(リツキシマブ、オビヌツズマブ)、微小管阻害薬結合抗CD30抗体(ブレンツキシマブ・ベドチン)、微小管阻害薬結合抗CD79b抗体(ポラツズマブ・ベドチン)、抗CCR4抗体(モガムリズマブ)、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(ツシジノスタットなど)、EZH2阻害剤(タゼメトスタット、バレメトスタット)、PNP阻害剤(フォロデシン)など、多数の新しい分子標的薬剤が発売されています。そしてそれら薬剤を導入することにより、治療成績が改善しています。
多発性骨髄腫は高齢者に多い造血器悪性腫瘍で、以前は確立された治療法がありませんでした。しかしプロテアゾーム阻害剤(ボルテゾミブ)の上市以降、レナリドマイド、ダラツムマブなどの新規薬剤が相次いで発売され、それら治療薬を組み合わせることで治療成績が飛躍的に改善しています。そこで当科では新規薬剤を積極的に導入しつつ、化学療法の計画を立てています。また主に65歳以下の患者さんを対象として、自家末梢血幹細胞移植を取り入れた強力な化学療法を計画的に実施し、完全治癒を目指した治療戦略の検討を行っています。
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