地域社会に広く開かれた循環器内科として、心臓血管外科・救急集中治療部・リハビリテーション部などと連携して積極的に活動しています。急性心筋梗塞などの虚血性心疾患、心房細動などの不整脈、心不全、さらには大動脈弁狭窄症に代表される弁膜症や塞性動脈硬化症のカテーテル手術など、安全で質の高い専門医療を患者さんに提供するとともに新しい診療技術の取り入れにも努力しています。
救急医療については、重症例を積極的に受け入れ、救急・集中治療部、心臓血管外科との連携を密にして治療に取り組んでいます。また、地域の医療機関と連携することで効率的な診療体制の強化を目指しております。
脚の血管から心臓に挿入した電極付きカテーテルで、不整脈の病巣となる異常な心筋を焼灼する治療です。不整脈専門医が集う施設のみで行われる高度な手術ですが、当院には平成6年(滋賀県下で最初)から25年を超える歴史があります。難しい症例も含め年約300例の手術を行っております。
適応疾患としては心房細動、心房粗動、心房頻拍、発作性上室頻拍、心室期外収縮、心室頻拍、心臓手術後不整脈などがありますが、近年ではとくに超高齢社会を反映して、脳梗塞や心不全の主な原因である心房細動に対するアブレーション治療が急増しています。根治率は心房細動以外の不整脈で通常95~99%、治療の難しい心房細動でも80%以上と高率です。退院まで3~5日です。
また当院では、発作性心房細動のアブレーション方法として、従来法の高周波通電のほか、手術時間を短縮できる高周波ホットバルーン(熱焼灼)やクライオバルーン(冷凍焼灼)を導入しており、患者さんの多様なニーズに応えることができる体制となっています。
平成12年、当院では不整脈の起源をコンピュータ画面上に3次元表示できるCARTO(カルト)システムを導入し、平成24年からはNavX(ナビックス)という治療ナビゲーションシステムを導入しています。これらのシステムにより、不整脈の原因となる病巣を立体的に表示し、治療の指標とすることができるようになったことで、治療の有効性と安全性が大幅に向上しました。
さらに平成27年度からは、本学の芦原らが発明して薬機承認され、特許を取得したExTRa Mapping(エキストラマッピング)という新たなマッピングシステムも導入しております。難治性の持続性(慢性)心房細動のメカニズムを瞬時に映像化できる世界初のシステムです。これまで特に治療が難しいとされた長期持続性心房細動(1年以上持続する心房細動)に対しても、本システム導入により、治療の安全性はそのままに、根治率を高めることに成功しました。
外来診療において、携帯型のイベント心電計による不整脈の早期発見と治療評価を行っています。手軽に持ち運べるため、日常生活で動悸、息切れ、胸痛などを自覚したときに、自身で心電図を記録していただけます。外来受診時に記録を読み込み、症状が心臓由来かどうかを診断します。また、ホルター心電図で記録できなかった不整脈の検出にも有効です。
不整脈の出現が稀である場合や、原因不明の失神から不整脈が疑われる場合は、植込み型の機器(植込み型心臓モニタ)で心電図を記録して診断することもあります。約3年にわたり不整脈を監視できる超小型の心電計です。従来の機器はUSBメモリほどの大きさでしたが、最新の機器はさらに小型化され、植込み後も体の表面から見て目立ちにくくなっています。
遅くなりすぎた脈を電気的な刺激により正常な脈を取り戻す「ペースメーカ(PM)」、心臓突然死に繋がる速くなりすぎた不整脈を自動検出して電気ショックで治療する「植込み型除細動器(ICD)」、心不全治療も行う「両室ペーシング機能付きICD(CRT-D)」(心臓再同期療法)を、前胸部の皮下や筋肉の中に植え込む手術を、年間100例ほど行っています。
遺伝性不整脈による失神後、心肺蘇生後、心筋梗塞後や心筋症による低心機能例など心臓突然死の危険性が高い場合には、予防的なICD植込みも行っています。
また、当院では平成29年度から最新型の超小型リードレス・ペースメーカ(右写真)の手術も始めました。体にかかるご負担や、感染などの術後合併症の大幅な低減が期待されます。
これらの治療は、当院のような不整脈治療デバイスの認定施設でしか行えません。手術時間は1~3時間で、退院まで数日~1週間です。その後は、当院の専門外来に数か月おきに通院いただきながら、最適な状態を保てるようにしています。
非弁膜症性心房細動を発症すると心房内に血栓ができやすくなり、これが脳の血管を閉塞すると脳梗塞の原因となります。一般的には血栓を予防する抗凝固薬の内服で脳梗塞予防を行いますが、出血等の理由で抗凝固薬の内服の継続が困難なケースがあります。そのような患者さんに対して、当科ではWATCHMAN(ウォッチマン)を用いた左心耳閉鎖治療を行っております。
本手技は、非弁膜症性心房細動において血栓が最もできやすい心臓の左心房にある「左心耳」を閉鎖し脳卒中を予防する医療機器で、非弁膜症性心房細動を罹患し長期間の抗凝固薬の服用ができない患者さんに対して1回限りのカテーテル手技で心房細動による脳卒中を予防するという新しい治療の選択肢となります。
滋賀医科大学循環器内科では2020年2月からFFR-ct検査を導入しました。これは、冠動脈CT画像で狭窄が見つかった部位の血流ついて調べる検査です。当院で使用している320列マルチスライス心臓CTは、高性能な装置で冠動脈の狭窄の形態の評価に優れた画像診断法です。しかし、狭窄度がボーダーライン(いわゆる中等度狭窄)である場合に、心臓CTの狭窄の形態だけから、侵襲的なカテーテル検査の必要性の判断が難しいケースがありました。FFR-ctの最大のメリットは、心臓CTとの組み合わせにより、カテーテル検査が必要な患者さんを、正確かつ安全に識別出来る事です。AI技術(ディープラーニング手法)を使って冠動脈を解析し、虚血性心疾患の診断に使う新たな検査です。既に撮影された心臓CTの画像データを病院外の解析専門施設に送信して解析を行います。既に撮影された冠動脈CTデータを用いるため、新たな被ばくや造影剤使用の心配はなく外来での検査が可能です。厳しい施設基準を満たす限られた病院でのみ可能な新しい画期的な検査方法です。
カテーテルインターベンションとは、胸を切らず局所麻酔でカテーテルという細い管を使って、血管を拡張する治療法です。
当院は日本心血管インターベンション治療学会専門医(指導医)が在籍する施設で、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患(冠動脈疾患)に対するカテーテルを用いた血管内手術を積極的に行っています。急性心筋梗塞や不安定狭心症などの救急疾患に対しては、24時間体制で治療を行っています。
従来、カテーテル治療は足の付け根の血管から行われていましたが、本院では多くのケースで手首の血管から検査・治療を行っています。これにより、長時間のベッド上安静が不要で、手術直後からの歩行が可能となるため、腰痛などをお持ちの方にも安心して検査・治療を受けていただけます。また、本院限定で使用可能なロータブレーター(冠動脈狭窄部拡張用ドリル)を有し、高度な石灰化病変にも対応しています。
足の血管・鎖骨下動脈・腎動脈などに対してもカテーテルを用いた血管内手術を数多く手掛けています。足の動脈が動脈硬化で狭くなったり閉塞すると、しばらく歩くだけで足の痛みやだるさを感じたり(間歇性跛行:かんけつせいはこう)、ひどい場合には足の指先や甲、かかとなどが黒く変色したり、小さな穴が開く状態(潰瘍)をおこします。強い痛みを伴う場合が多く、最悪の場合は、下肢を切断しないといけない状態になることがあります。
本院では、このような症状の患者さんに対してもカテーテルを用いた血管内手術を積極的に行い、他院では下肢切断を勧められた患者さんでも切断を回避できた経験を多数有しています。また、フットケアチーム(循環器内科・フットケア専門ナース・皮膚科・整形外科・糖尿病内分泌内科)による集学的診療を行っています。
※毎週月曜日の14:00~「閉塞性動脈硬化症専門外来」を開設しています。
冠動脈CTとしては、本院では320列マルチスライスCTを使用しています。64列CTと比較して、1度に心臓全体をスキャンできるため呼吸停止時間が短く、放射線被曝も極めて低減されます。ご高齢の方で、息止めが長くできない方でも良質な画像を得ることが可能です。
また、画像解析は専任の循環器専門医および放射線科医があたっています。心臓だけでなく肺疾患についても所見を提供しており、偶発的に肺がんが発見されるケースもあります。
当科は急性期から慢性期、終末期の看取りまで心不全診療を行っています。心不全は様々な心疾患が原因となる病態であり、当院はTAVIや心臓血管外科の開胸手術、虚血性心疾患に対するカテーテル治療や心臓バイパス手術、重症心不全に対するCRTなど専門医療を滋賀県下において担っています。しかし、今後は滋賀県でも高齢者の増加に伴い、『心不全パンデミック』といわれるように高齢心不全患者さんが顕著に増加することが予想され、すべての心不全患者を当院で急性期から看取りまで診療継続することは困難となることが予測されます。また、高齢心不全患者さんは併存疾患が複数であることも多く、老々介護や独居高齢者、認知症など様々な社会的サポートが必要であることから心不全診療においても多職種介入が必須となっています。そこで当院でも2015年に心不全多職種チームを立ち上げ、循環器内科スタッフもその一員として心不全チーム医療に携わっており、病病連携や病診連携、地域スタッフとの勉強会などを開催して『心不全患者さんが地域で、安心して心不全診療を受けることができる』診療体制の構築を進めています。
インペラ(IMPELLA)は、世界最小のハートポンプであり、小型の軸動流ポンプを用いることにより血液を左心室から吸入し上行大動脈に吐出させる仕組みを持つ心原性ショックに対する循環補助装置です。
インペラ(IMPELLA)は、迅速導入が可能かつ強力な循環補助により予後を改善させる可能性が示されており、具体的には心原性ショックを合併した急性心筋梗塞や劇症型心筋炎、超重症心不全の増悪で搬送される症例に有効と考えられています。
2017年より本邦で使用可能となり、当院では施設認定を受け、2021年1月より使用開始となりました。
日本人の2人に1人ががんに罹患しますが、がん治療の進歩によりがん患者さんの予後は大幅に改善しています。もはやがんは高血圧や糖尿病といった慢性疾患といっても過言ではない時代といえます。その一方で、がん治療に伴う心血管合併症のためにがん治療を完遂できず、予後に悪影響を及ぼすこともあります。抗がん剤で心機能が悪化することは古くから知られていますが、近年新しく開発されている分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬なども、優れた抗がん作用を示す一方で、さまざまな心血管合併症を引き起こすことが明らかとなっています。また一部の抗がん剤や放射線治療では、がん治療が終了した後でも、数年あるいは数十年後に心機能が悪化することがあります。
このような背景から、がん患者さんにおける心血管合併症を専門的に診る「腫瘍循環器」の重要性が高まっています。当院では、「腫瘍循環器外来」を開設し、循環器専門医とがん専門医が互いに連携することで、がん患者さんが安心して治療を受けていただけるようにサポートします。
大動脈弁狭窄症は、大動脈弁が加齢などで石灰化して開きが悪くなり、血液の流れが妨げられてしまう疾患です。病状が進むと動悸や息切れなどの症状が現れ、重症になると失神や突然死に至る可能性もある疾患です。TAVIは、胸を開かず心臓が動いている状態でカテーテルを使って人工弁を心臓に装着する治療で、体への負担が少ないことが特徴です。手術リスクが高く(高齢の方、心臓の手術を過去に行った事がある方、全身状態が良くない方、体力の低下を認める方)、心臓外科手術が困難とされていた方にとって新しい治療法です。治療はハイブリッド手術室と呼ばれる手術室において行っています。当院は滋賀県下でTAVIを施行できる施設です。(2019年4月現在)
僧帽弁閉鎖不全症は、種々の原因により左心房と左心室との間にある僧帽弁が適切に閉じなくなり、左心室から送られる血液の一部が左心房に逆流してしまう病気です。これまで、僧帽弁閉鎖不全症の治療は薬物治療と外科手術がありました。薬物治療はあくまで対症療法であること、そして外科手術は左室機能の低下、複数の併存疾患、ご高齢の患者さんにおいてはどうしても困難であると思われ、重症な僧帽弁閉鎖不全症の患者さんには有効な治療法が他にありませんでした。今回、MitraClipシステムを用いた経カテーテル僧帽弁接合不全修復術が登場したことにより、外科手術を受けるにはリスクの高い患者さんに対しても治療の選択肢を増やすことができるようになりました。
閉塞性肥大型心筋症(HOCM)は心室中隔の著名な肥大により心室内で圧較差を生じ、心不全や不整脈、突然死を来す疾患です。強い収縮期雑音、心不全症状などで発見されます。
本院ではHOCMに対して、心室中隔の一部を選択的に焼灼することで心室内圧較差を軽減させる経皮的中隔心筋焼灼術を行っております。
QT延長症候群をはじめとしてBrugada症候群、カテコラミン誘発性多形性心室頻拍、不整脈原性右室心筋症などの遺伝性不整脈疾患の他、心室細動(VF)による心肺蘇生例の遺伝子解析を行っています。
当院での遺伝子解析の特徴として、(1) NGS(Next Generation Sequencer)を用いて10数種類を超える候補遺伝子を一挙に検索 (2)明らかな遺伝子変異が見つかった場合はもちろん、評価に難渋するような一塩基多型についても、遺伝性不整脈診療に豊富な経験を持つ医師からのコメントを添えてご報告といった点がございます。症例は全国から送られてきており、不整脈領域では国内最大規模の症例を集積しております。このため、文献ベースで報告がない変異なども、データベース内での症例比較検討が可能なこともございます。
是非よろしくご検討ください。
なお、先天性QT延長症候群の遺伝学的検査については、保険償還がなされていること、今後、他の遺伝性心疾患についても保険償還を目指す必要があること、そして遺伝学的検査の進歩による費用の高騰などの理由から、当施設でも有料化に踏み切りました。皆様のご理解とご協力の程をよろしくお願いいたします。
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